雪の結晶と北杜夫
2011年 10月 27日
短大の保育科にいたころ。
私は児童心理学やら社会福祉学やらの授業にあまり関心が持てなかった。そもそも児童心理学が好きだったら、あんな純粋無垢な幼子を日頃から「クソ餓鬼」呼ばわりするはずもない。
その代わり、物理の授業が好きだった。
何故、保育科だったのに物理の授業を選択できたのか、記憶が無い。
ともかく、その授業が私にとって一番興味関心があったのだ。
私の短大はH大の隣だったので、H大の助教授や講師が教鞭をとることがあった。
その物理の授業もH大の物理学の先生で、主に「雪の結晶」や「氷点下で起こる物理現象」などを教えてくれた。
それまで、物理学が大の苦手だった私なのだが、先生が雪の結晶のスライドを眺めながら「皆さん、雪の結晶はこんなにも色んな種類があって、本当に綺麗でしょう」とうっとりとした口調で説明するのを、私はワクワクしながら聞いていた。
この物理の先生は、かなり年配であったが、授業をしているときの瞳はまるで少年のようであった。
きっと、心からこの分野が好きで、研究が楽しくて仕方がないんだろうな・・・と学生時代の私は思った。
型破りな先生で、最後の授業の時には、生徒達に「南極の氷」を振る舞ってくれた。
研究のために行っている南極のお土産だ。
南極の氷をグラスに入れて、水を飲む。
何とも言えない幸福な気持ちが私を包んだ。
あの授業は本当に楽しかったな。
そんな先生が出す宿題は「読書感想文」だった。
物理学なのに、それとは全然関係ない本を課題にする。
最初の課題は北杜夫の「どくとるマンボウ青春期」であった。
記憶が定かではないが、その先生と北杜夫が高校時代の同級生だったとか。
はたして、「どくとるマンボウ青春期」は、私の大好きな本ベスト10に入ることになった。
この本は、作家北杜夫の青春時代の回想録である。
戦後、食べることにも事欠きながらも、若者達はどん欲に学び、そしてそれ以上に破天荒に遊ぶ。
実在する登場人物たちが巻き起こす事件に腹を抱えて笑い、そしてその登場人物達のユーモアと示唆に富んだ一言一言に思わず唸ってしまう。
読み終えた後、羨ましくなるはずだ。この時代の若者達が。
現代の若者は、なんと不幸なんだろう・・・と悲しくもなる。
それでも、私は19歳の時にこの本に出会えた。
学ぶことの楽しさ。充実して生きることのすばらしさ。それらをこの本は気づかせてくれる。
本を読んだときには気がつかなかったが、今は物理の先生が授業と関係ないこの本を読むことを科したことを理解できる。
人生についてよく考えもせずに、保育科に来てしまった私たちに伝えたかったんだろう。
自分たちがかけがえのない青春時代を過ごしていることと、好きな分野を学ぶことの楽しさを。
もちろんこの本は10代~20代のうちに読んでおくことがベストだ。
でも、30代40代でも楽しめると思う。
私も煩煩が小説を読めるようになったら絶対にすすめたい一冊だ。
昨日、ニュースで作家・北杜夫の訃報を知った。
50人の保育士の卵に、雪の結晶について熱く語る老先生を思い出す。
保育には関係ない授業だったかもしれないが、その先生の姿は、理想の保育士と子ども達の関係に重なる。
また読みたくなったな。
「どくとるマンボウ青春期」を。
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私は児童心理学やら社会福祉学やらの授業にあまり関心が持てなかった。そもそも児童心理学が好きだったら、あんな純粋無垢な幼子を日頃から「クソ餓鬼」呼ばわりするはずもない。
その代わり、物理の授業が好きだった。
何故、保育科だったのに物理の授業を選択できたのか、記憶が無い。
ともかく、その授業が私にとって一番興味関心があったのだ。
私の短大はH大の隣だったので、H大の助教授や講師が教鞭をとることがあった。
その物理の授業もH大の物理学の先生で、主に「雪の結晶」や「氷点下で起こる物理現象」などを教えてくれた。
それまで、物理学が大の苦手だった私なのだが、先生が雪の結晶のスライドを眺めながら「皆さん、雪の結晶はこんなにも色んな種類があって、本当に綺麗でしょう」とうっとりとした口調で説明するのを、私はワクワクしながら聞いていた。
この物理の先生は、かなり年配であったが、授業をしているときの瞳はまるで少年のようであった。
きっと、心からこの分野が好きで、研究が楽しくて仕方がないんだろうな・・・と学生時代の私は思った。
型破りな先生で、最後の授業の時には、生徒達に「南極の氷」を振る舞ってくれた。
研究のために行っている南極のお土産だ。
南極の氷をグラスに入れて、水を飲む。
何とも言えない幸福な気持ちが私を包んだ。
あの授業は本当に楽しかったな。
そんな先生が出す宿題は「読書感想文」だった。
物理学なのに、それとは全然関係ない本を課題にする。
最初の課題は北杜夫の「どくとるマンボウ青春期」であった。
記憶が定かではないが、その先生と北杜夫が高校時代の同級生だったとか。
はたして、「どくとるマンボウ青春期」は、私の大好きな本ベスト10に入ることになった。
この本は、作家北杜夫の青春時代の回想録である。
戦後、食べることにも事欠きながらも、若者達はどん欲に学び、そしてそれ以上に破天荒に遊ぶ。
実在する登場人物たちが巻き起こす事件に腹を抱えて笑い、そしてその登場人物達のユーモアと示唆に富んだ一言一言に思わず唸ってしまう。
読み終えた後、羨ましくなるはずだ。この時代の若者達が。
現代の若者は、なんと不幸なんだろう・・・と悲しくもなる。
それでも、私は19歳の時にこの本に出会えた。
学ぶことの楽しさ。充実して生きることのすばらしさ。それらをこの本は気づかせてくれる。
本を読んだときには気がつかなかったが、今は物理の先生が授業と関係ないこの本を読むことを科したことを理解できる。
人生についてよく考えもせずに、保育科に来てしまった私たちに伝えたかったんだろう。
自分たちがかけがえのない青春時代を過ごしていることと、好きな分野を学ぶことの楽しさを。
もちろんこの本は10代~20代のうちに読んでおくことがベストだ。
でも、30代40代でも楽しめると思う。
私も煩煩が小説を読めるようになったら絶対にすすめたい一冊だ。
昨日、ニュースで作家・北杜夫の訃報を知った。
50人の保育士の卵に、雪の結晶について熱く語る老先生を思い出す。
保育には関係ない授業だったかもしれないが、その先生の姿は、理想の保育士と子ども達の関係に重なる。
また読みたくなったな。
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by bonbonmama
| 2011-10-27 21:22
| 読書